ビーチや海岸に打ち上げられたごみの殆どは、海に遊びに来た人が浜辺で捨てたごみではありません。私たちの暮らす街から、川を通って海まで流されて来たごみです。
世界中のビーチクリーンで、常にトップ10に入るのが、以下にあげた使い捨てプラスチック類です。ごみの多くはきちんとごみ箱に捨てられていますが、やはり100%きちんと捨てられているわけではありません。どうしても、一部は自然界に出てしまいます。ですから、使い捨てプラスチックが漂着ごみとして多いのは、野外で買って、使って、そのままごみになる量がとても多いことを表しています。
●使い捨てされるプラスチック
タバコのフィルター
お菓子の小袋
ペットボトルとキャップ
テイクアウト用プラカップ、カップの蓋、ストロー
レジ袋
弁当容器、惣菜の容器
●漁業系のごみ
漁網
漁業の浮き
カキの養殖パイプ
発泡スチロール
●その他の海ごみ
パイロプラスチック
マイクロプラスチック
タバコのフィルター ビーチクリーンで一番数が多いごみが、タバコのフィルターです。プラスチックの合成繊維でできています。
街では、吸い殻を排水溝に捨てる場面をよく目にします。タバコは火災の原因として注目されたため、火が消えるとの発想からでしょうか。また、車の窓からのポイ捨ても多いですね。交通量の多い交差点の周囲には、たくさんの吸い殻が溜まっています。
これらはみな、雨が降れば側溝から川に流れ、海にたどり着きます。ゲリラ豪雨のあとは、特に大量のフィルターが海岸に漂着します。細かい繊維なので劣化も早いはずですが、常に断突で数が多いのは、常に供給され続けている証拠です。
JTの材料品添加物リストによれば、フィルター素材は酢酸セルロース由来のアセテートという繊維で、これをフィルターの形にまとめるために可塑剤(トリアセチン)が加えられています。
お菓子の小袋
キャンディー、クッキー、ミニケーキ、お煎餅、ナッツ、チョコレート、その他何でも、一口ずつ小さな袋に入っていますね。手軽に持ち歩け、食べる時に手を汚さないためでしょうか。それとも、食べる直前まで新鮮なイメージ?
この小さな袋も、街でたくさん捨てられて、川から海に流れます。ポリプロピレン(PP)でできた小袋は、タバコのフィルター同様に、街を流れる川の河口近くの浜でたくさん見つかります。
ペットボトルとキャップ
出かけた先のコンビニや自動販売機で買って、飲み終わったらポイ。ボトル(PET)は水に沈むため、キャップが外れて海水が入ったボトルは、海底に沈んでいます。海岸に流れ着くのは、キャップがついたままの一部のボトルだけ。それでも大量に見つかります。
キャップはポリプロピレン(PP)で水に浮かぶため、海岸ではキャップだけがたくさん見つかります。
プラカップ、カップの蓋、ストロー
出かけた先で買って、飲みながら歩いて、飲み終わったらぽい? だれかが片付けてくれるよう、目立つ場所に置いていく人もいます。あるいは、ごみ箱が一杯で、近くに置いたのかもしれません。
これらの多くは風で転がり、川から海に流れます。海ごみの大部分は、これらの使い捨てプラスチックです。透明なカップと蓋はPET、ストローはポリプロピレンでできています。プラスチックを自然素材に変えたとしても、使い捨てる文化があるかぎり、街から排出されるごみは減りません。
レジ袋
離島の海岸には少ないのですが、都市部の海岸には必ず、新品に近い状態のレジ袋がたくさん打ちあがっています。スーパーやコンビニで、お弁当やペットボトルやお菓子を買って、野外で食べて、そのまま置き去りにされたり、風に飛ばされたり。その多くは、もらって1時間も経たないうちにごみになります。ちなみにレジ袋は、高密度ポリエチレン(HDPE)でできています。
平均すると、日本人は1人が1年間に350枚以上も使っている計算になるそうです。そのうち1%でも海に出れば、日本全体としては1年で1億枚近いレジ袋が海に流れていることになります。
弁当・惣菜の容器
沖縄には、街中にたくさんのお弁当屋さんやてんぷら屋さんがあり、スーパーマーケットやコンビニでも、お弁当や惣菜が手に入ります。てんぷらを入れる容器は、透明でパリパリしたポリスチレン(PS)。その多くは、透明な蓋がつながっています。お弁当は、蓋は透明のポリスチレンで、ご飯とおかずの入っている方は赤や黒の色付きポリスチレンの場合もあります。最近は、熱に強くて電子レンジも使える、発泡ポリプロピレン(PP)の容器も増えました。暖かいスープや味噌汁は、保温のために発泡性のポリスチレン(発泡スチロール)に入っています。カレーなら、発泡性のポリプロピレン容器に、お箸のかわりにポリスチレンのスプーン。
これらは、テイクアウトのドリンク類同様、食後に野外でポイ捨てされたり、風で飛ばされたりして、川の流れに流されて海に届きます。ポリエチレンとポリプロピレンは水に浮きますが、ポリスチレンは海水でも沈むため、まとめてレジ袋に入った状態で、海岸に流れ着いていることが多いです。
漁網
台風が通過すると、強い風と波の影響で、流木などの大きなごみが海岸に打ち上げられることがあります。漁網のかたまりもそんなごみの一つ。砂の上に見えている部分は小さくても、大きくて重いので、砂の中深くまで埋もれていることがあります。網には砂利や石が絡まって、掘り出すのはとても大変。岩場では、太いロープが大きな岩に絡まっていることもあります。
沖縄の沿岸漁業に多い刺し網や定置網には、釣り糸などにも使われる強靭なナイロン繊維が使われています。
漁業の浮き
ペットボトルと共に、海岸の漂着物で目立つのが漁業の浮き。丸いのや細長いの、大きいのや小さいの、黒いのや青いの、硬いのや柔らかいのなど、様々な種類の浮きが見つかります。漁網にたくさん付いた状態で見つかることもあります。
よく見かける海外の硬い浮きには、波や強い日差しに耐えるためや、藻や貝類が付いて沈んでしまわないために、生物に有害な化学物質や重金属を練りこんであります。沖縄の浜辺は紫外線が強く、温度も高く、波と砂の影響もあって、表面がどんどん劣化して白く粉々になり、中の有害化学物質が周囲に溶け出ています。これらの有害成分は、海岸の動植物の体内からも検出されています。浜辺で浮きを見つけても、素手では触らないように。もし触ったら、手を洗いましょう。
カキの養殖パイプ
砂浜を歩いていると、小指ほどの太さで長さが15cm~20cmほどの、プラスチック(ポリプロピレン)のパイプが見つかります。色は、黒、緑、青、グレーなど。これは、海中にカキを吊るして養殖するときに使うパーツです。
養殖のカキが成長するのは、ホタテガイの殻の上。ホタテの貝殻に穴をあけ、ロープを通して、筏から海中に吊るして養殖します。ホタテの貝殻が重なってくっついていると、カキが成長する隙間がないので、殻と殻の間にスペーサーとしてこのパイプを入れます。そして、カキを水揚げするときは、船の上にロープごと引き上げて、ロープを切ってカキを回収します。このとき、パイプの一部が海に流れ出ることもあるようです。また、台風等でロープが切れる事があるかもしれません。
発泡スチロール
魚を入れるトロ箱と呼ばれる白い箱、安いクーラーボックス、野菜や果物の保冷ボックスなどは、みんな発泡スチロール(ポリスチレン: PP)です。魚の養殖に使う生簀に使ってある、ひと抱えもあるような大きな浮きも、発泡スチロールで作られています。
海岸に流れ着いた発泡スチロールの塊は、その多くが砕けたかけらで、元は何だったかわからないものが多いです。浜を風で転がりながら、どんどん砕けて小さなつぶつぶに分かれ、マイクロプラスチックとなり、拾うのがとても大変になってしまいます。
パイロプラスチック
パイロプラスチック(pyroplastic)の主成分は、比重の小さいポリエチレンとポリプロピレン。添加物由来の鉛やクロムなどの重金属も含まれています。プラスチックが燃やされて灰色の塊となり、海岸に漂着してから長期間にわたって浜辺で風化することで、角が取れてすべすべとした河原の石のような形になったものです。焼却したごみの海への投棄が、発生源の1つと考えられています。
マイクロプラスチック
プラスチックが紫外線等で劣化して、細かく砕け、約5mm以下の小さなかけらになったものをマイクロプラスチックと言います。海岸では、満潮線や、打ち寄せた波の跡として、海藻などと一緒に波打際と並行に並んでいます。
形としては、砂つぶのようなかけらだったり、ロープや網がほどけたような繊維だったり、敗れたシート状だったり、様々です。殆どが細かいかけらなので、材質や、元の形はわかりません。ただ、中には特徴的なものもあって、いくつかは、その由来がわかるものもあります。
・人工芝
マイクロプラスチックを調べていると、緑色で細長いかけらを見つけることがあります。色と形と大きさ、そして硬さなどから、どうやら人工芝のかけらだとわかります。多くの場合、人が踏みつける野外に設置されるので、太陽の光で劣化して、踏みつけられて折れ、雨で洗い流されて海までやって来るようです。
・三角コーン
マイクロプラスチックの多くは、発泡スチロールなどの白いかけらが多いのですが、中には赤く目立つかけらも見つかります。その厚みや硬さから、どうやら赤い三角コーンのようです。工事現場や駐車場など、野外に長時間設置され、ボロボロになったものを見たことがありませんか? 野外に設置するプラスチックは、どうしても劣化して粉々になってしまいます。
・レジンペレット
プラスチック製品を作る元となる材料で、最初から小さなマイクロプラスチックです。製品工場まで、小さな丸い粒の状態で輸送されます。プラスチックを作る過程で漏れ出る他にも、ぬいぐるみの詰め物として使われたり、パチンコの玉の汚れ落としに使われたりしたものが、野外に流れ出ているようです。プラスチックは油とくっつく性質があるので、パチンコ玉に着いた油汚れを落とすのに、随分以前から使われていたようです。浜辺で見つかるペレットも、海を漂う油をくっつけて、みんな薄汚れています。
海を漂う油には、私たちが海に出した有害物質がたくさん溶け込んでいます。マクロプラスチックが問題なのは、この油をその表面に吸着する性質と、有毒な油をつけた状態で小さな生き物に食べられること、プラスチックは消化されないが油分は生き物の体内に吸収されること、さらにそれを食べた大型生物の体内で有害物質が濃縮されていくこと。私たちが海に流した有害物質は、マイクロプラスチックの出現により、海の生物たちの体に広く取り込まれ、最終的には私たちの食卓に戻ってくることになりました。