沖縄県の島々の海岸には、毎年大量の漂着物が打ち上げられます。その多くが、黒潮によって流れてきた漂着ごみです。
黒潮と海ごみ
沖縄県の漂着ごみの量
離島でのごみ処理問題
海外のごみと地元のごみ
プラスチックごみの問題
フィリピン沖から北上する黒潮は、台湾と与那国島の間を通って東シナ海に入り、琉球列島の西側を北上します。その際、北風が吹く冬に、黒潮の表層を流れる漂流物は、風の影響を受けて琉球列島の島々の海岸に多く漂着します。
その後、黒潮は屋久島・種子島の南を太平洋側に抜けて、四国沖・本州沖を東へ進み、やがて三陸沖を南下する親潮と合わさって北太平洋海流となり、ハワイの北の海域へと東進します。
北太平洋海流は、その後、カリフォルニア海流、北赤道海流、黒潮へとつながる北太平洋循環流を形成します。その過程で、ハワイの北方海域に、ゆるやかな渦流が形成されます。この渦流に、海面を漂うごみが多数取り込まれて、「太平洋ごみベルト」と呼ばれるごみの多い海域が生じています(東のごみ海域)。日本の近くにも、同様にごみの多い海域(西のごみ海域)が形成されています。
黒潮は、非常に流れの強い海流です。これが、日本を含む東アジアの人口の多い地域から出るごみを、大量に含んで流れて行きます。このため、太平洋ごみベルトにも、日本からのごみが多数見つかっています。
平成22~28年度の沖縄県調査によると、冬の2ヶ月間に沖縄県内の海岸に漂着する漂着物量の推計値は、重さで200~700t、体積で3,000~5,000m3に及びます。特に漂着量が多いのは、宮古諸島と八重山諸島の島々です。沖縄島の周辺では、本島よりもその周辺離島に漂着ごみが多く見られる傾向があります。
離島では、島の人口が少なくビーチクリーンを行う人手が少ないこと、拾ったごみを処理する施設がなかったり、本島まで輸送する費用がかかるなど、漂着ごみの処理は大きな負担となっています。また、崖の下など、海岸へのアクセスが難しい場所にもごみは漂着しています。どの島においても、全ての海岸で漂着ごみの回収を行うことは困難なのが現状です。
漂着ごみはどこからやってくるのでしょうか。ラベルのついたペットボトルについて、生産国別に個数を数えたデータを見ると、沖縄の島々に漂着するペットボトルは中国製が全体の7~8割を占めます。しかし、沖縄島だけで見ると、中国製は約5割程度となり、逆に日本製のボトルが4割程度に増えます。
つまり、人口の多い沖縄島では地元から出るごみの割合が増えるのに対し、人口の少ない離島では、地元のごみが少ない上に、漂着ごみが非常に多いので、海外製の割合が大きくなるのです。
また、沖縄県の人口は約145万人(2019年7月)ですが、中国の人口は約14億人(2017年)と推計され、沿岸部に人口の多い都市が連なります。そのため、1990年代に中国でペットボトルの生産が増えて以降、中国製のボトルが多く漂着するようになりました。
つまり、ポイ捨てなどのマナーの良し悪しの問題ではなく、人口が多ければそこから排出されるごみが増え、漂着ごみにもそれが反映されるということです。
漂着ごみの大半を占めるのは、プラスチック類です。これには、ペットボトル、漁業用のブイや養殖いかだの浮きに使われる発泡スチロール、生活用品の各種プラスチック類が含まれます。
プラスチック類は、海岸に漂着した後、太陽の紫外線と熱の影響で劣化し、さらに波と風の力でどんどん細かく砕かれて、マイクロプラスチックと呼ばれる5mm以下のサイズになっていきます。沖縄のような亜熱帯地域では、紫外線と熱の力が強く、プラスチック類の劣化が早く進みます。
また、プラスチック類は目に見えないほど細かくなっても、完全に分解してなくなるわけではありません。さらに、劣化の過程で、プラスチック類に含まれていた有害化学物質が溶け出し、海岸環境を汚染していきます。
すでに、沖縄県内の海浜の動植物から、プラスチック由来の化学物質が検出されています(平成〓年報告書)。こうしたプラスチック類が台風等で海に再流出すれば、海水中に有害化学物質を出しながら漂流したり、他の海岸に再漂着することになります。海を漂うマイクロプラスチックは、海洋生物の幼生などのプランクトン類、稚魚や小型の魚類などが誤って食べてしまうこともわかっています。
漂着ごみの劣化や再流出を防ぐためにも、ビーチクリーン活動を定期的に行うことは、非常に大きな意味があります。同時に、これ以上プラスチックごみを海に出さないための、プラスチックごみ削減の取り組みも、より一層求められています。
★さらにくわしく → 沖縄県海岸漂着物等対策推進協議会の資料より、沖縄県の海ごみ調査報告