沖縄県の海ごみ対策の概要

 沖縄県では、深刻化している海岸漂着物問題について、国が創設した「地域環境保全対策費補助金(海岸漂着物地域対策推進事業)」を活用し、沖縄県海岸漂着物地域対策推進事業を実施しています。
 詳しくは、沖縄県環境整備課の、海岸漂着物対策についてをご覧ください。

以下は、沖縄県の海岸漂着物に関する取り組みの概要です。

平成21年度〜24年度
平成25年度〜28年度
海ごみモニタリングとその結果
マイクロプラスチックの調査方法
海ごみと有害物質の、影響と対策
今後の課題

 

■平成21年度~24年度
 以下の4分野の調査・検討・実施を行なっています。

1:海ごみの状況把握のための現地調査(現存量等の把握のための海ごみの概況調査、漂着状況や年間漂着量等の把握のための定点モニタリング調査)
2:海ごみの情報収集・整理と、対策の検討(効果的な回収・処理方法についての調査、県内からの海ごみの発生を抑制するのための普及啓発、関係者の役割分担や相互協力などの体制作り)
3:一般向けの海ごみの資料の作成(海岸清掃マニュアル・住民活動編と回収事業者編、海ごみを減らすための教材)
4:海ごみの回収・処理(海岸管理者による海ごみの回収・処理、震災ごみの再資源化の検討)

 

■平成25~28年度
 海ごみの回収・処理、モニタリング、再資源化の検討、海ごみと有害物質の影響と対策の検討を行なっています。また、海ごみの発生抑制のためのワーキンググループ作りを行い、人材育成や環境教育の実施、教材等の作成、海ごみの発生についての調査検討、海外交流事業を行なっています。

 

■海ごみのモニタリングとその結果
 沖縄県の具体的なモニタリング方法は、平成23年度沖縄県海岸漂着物対策事業の地域計画資料「沖縄県内の海岸漂着物等の現況」に示されています。また、海ごみの回収や、海ごみを出さないための対策に用いるために、代表的な海岸で海ごみのモニタリングを行っています。

 調査は、各海岸の海ごみの量が平均的な場所を選び、海岸に沿って長さが50mの調査範囲を決定。調査範囲の幅は、調査を行った時の波打ち際から、陸側の植生・堤防・傾斜地など、浜辺の終わるところまで。最初にGPSで位置を記録して、次からは同じ位置で調査を行っています。

 調査では、調査範囲内にある大きさ1cm以上の海ごみを全て回収し、表5の調査シートに従って海ごみを分別し、重さと容量を記録しています。調査範囲の写真も撮影。
 どの海岸でも見られる特徴的な海ごみ7品目(ペットボトル、ライター、飲料缶、ポリタンク、漁業用ブイ、ビニール製バルーン、電球・蛍光灯)については、生産国や個数などを記録しています。
 調査時期は、冬場の11月と1月の2回を基本とし、年度によっては3月・5月・9月にも行っています。11月~1月までの冬場の60日間の海ごみの量については、平成28年までに7年分の情報が集まっています。
 調査で集められた海ごみは、調査実施者の責任で、廃棄物処理法や地元自治体の廃棄物処理計画ならびに指導に従って、適正に処理されています。

 平成21~23年度の海ごみ量の調査では、歩いて調べられる県内の873の海岸について、向きと長さを記録し、各地域の方位別の海岸総延長を計算しています。そして、各地域の代表的な海岸で得られたデータを、同地域の同方位の海岸に適用して、その地域全体の海岸の海ごみの量を推計しています。
 例えば沖縄島では、6地点で定点調査を行っています。それぞれの地点に近い区間の海岸について、調査地点の値に海岸延長を掛けて、その区域全体の海ごみの量を推計しています。

 

■マイクロプラスチックの調査方法
 沖縄県では、マイクロプラスチックの定義や回収方法、環境や生物への影響などの情報収集を行い、沖縄の各地の海岸で簡単に行える調査方法について検討を行っています。また、紫外線が強い沖縄の海岸では、海岸でプラスチックが劣化・崩壊してマイクロプラスチックになっているがことが指摘されているため、漂着量が多いのか、劣化してできる量が多いのかも、検討しています。

 調査では、砂ごとマイクロプラスチックを回収してから分別しますが、砂の採集は、1m2に換算しやすい25cm×25cmの範囲で、深さ1cmとしています。1つの海岸では、海ごみが多く溜まった満潮線を基準として、満潮線の海側、満潮線付近、満潮線より陸側、植生の始まる辺りの、4ヶ所から砂を採集しています。
 採集道具は、県内のどこでもできるように、ホームセンターや100円ショップで手に入るものを中心に使っています。
 野外での採集作業は、1:位置を決めて写真を撮影し、2:金魚ネットで濾した海水をバケツに汲み、3:サンプル容器に場所とサンプル名(マイクロプラ・5mm以上の人工物)を記入し、4:チリトリを使って砂をすくい取り、5:海水の入ったバケツの上で砂をふるい、6:ふるいに残った5mm以上のマイクロプラをサンプル容器に入れ、7:バケツの海水に浮かんだマイクロプラを金魚網で掬ってバット等に移し(網は裏側から水を掛けてプラを落とす)、8:バケツをかき混ぜて掬うのを3回繰り返したらバット等に集めたマイクロプラを金魚網で漉してサンプル容器に入れ、9:データシートに、採集年月日、海岸名、採集地点等を記入する。
 採集したサンプルは室内に持ち帰り、硬いプラスチックの破片、発泡スチロールの破片、レジンペレット、繊維やシート状の破片の4つに分け、数を記録します。 

 

■海ごみと有害物質の、影響と対策
 平成27年度は、海岸に生息する小型甲殻類(カニ類:ツノメガニあるいはミナミスナガニ、オカヤドカリ類:ムラサキオカヤドカリとナキオカヤドカリ、ヤシガニ)を採集して、体内の有害物質(残留性有機汚染物質と重金属類)の濃度を測定しています。サンプルは、文化財保護法の規定による現状変更許可を得て、海ごみの多い海岸と少ない海岸からそれぞれ採集しています。 
 残留性有機汚染物質 POPsについては、PCBsとPBDEsについて解析しています。重金属類については、鉛、亜鉛、カドミウム、クロム、セレン、アンチモン、アルミニウム、マグネシウム、銅、ニッケル、スズ、マンガン、バリウム、ヒ素の14元素について解析を行っています。解析を行ったのは、東京農工大学、高田教授と渡邊准教授。これらの解析と同時に標本の胃内容物の調査も行い、胃の中のプラスチッックの有無を確認しています。解剖は沖縄県立芸大、藤田准教授。 

 海ごみの多い全ての海岸では、オカヤドカリ類の筋肉と内臓から高い濃度の塩化ビフェニル(PCBs)が検出され、これは海ごみのプラスチックが原因と考えられます。プラスチックの添加剤のPBDEsでは、1-6臭素のPBDEs濃度は、PCBsと似た傾向でしたが、7-10BDEでは海ごみの量や海岸毎の関係は見られませんでした。 
 ムラサキオカヤドカリの筋肉から検出された〓の濃度は、海ごみの多い海岸で高い値となり、全ての島で同じような傾向が見られました。また、島ごとに、濃度の高い重金属の種類は異なっていました。オカヤドカリ類では、プラスチック由来の微量元素は、強毒性の重金属類、アルカリ金属・アルカリ土類金属、希土類の3つのグループに分けられます。ムラサキオカヤドカリの筋肉に含まれていた重金属元素等の分析結果の例が示されています。
 ツノメガニの蟹味噌(中腸腺)と体液を分析した結果、島によって重金属の濃度は異なるものの、ZnとAsの濃度は全ての島で類似した傾向を示し、プラスチック由来と考えられました。西表島では、重金属類のZn, As, Se や、アルカリ金属のCsとRbはプラスチッック由来と考えられました。オカヤドカリ類に比べて、ツノメガニではAsとCdの濃度が高く、とりわけCdの濃度が極めて高く、特異的に蓄積していました。ツノメガニの中腸腺に含まれていた重金属元素等の分析結果の例が示されています。 
 このように、生き物の体内には、海ごみが多い海岸の方が、プラスチッック由来と考えられる有害物質の濃度が高い傾向にありました。カニの胃袋からも、プラスチック片が見つかっています。平成26年度の調査・分析では、海ごみには様々な重金属が含まれ、これらは海水や雨などによって周囲に溶け出すことが証明されています。このことから、海ごみに含まれる様々な有害物質が、海岸の生態系に影響を及ぼしている可能性は高いと考えられます。

平成27年度の報告書では、海ごみからカニ類への有害物質の取り込みパターンがいくつか考えられています。
・海ごみ→マイクロプラスチック→カニ類が食べる→有害物質を体内に取り込んで溜める。
・海ごみ→マイクロプラスチック→カニ類のエラに着く→有害物質を体内に取り込んで溜める。
・海ごみ→有害物質が砂浜に溶け出る→カニ類が餌と一緒に汚染された砂を食べる→有害物質を体内に取り込んで溜める。
・海ごみ→有害物質が砂浜に溶け出る→汚染された砂がカニ類のエラに着く→有害物質を体内に取り込んで溜める。
・海ごみ→有害物質が砂浜に溶け出る→砂浜の植物や虫や打ち上げられた海藻などが汚染される→これをカニ類が食べる→有害物質を体内に取り込んで溜める。

 海岸の生態系への影響については、無脊椎動物のカニ類と、脊椎動物のヒトでは、有害となる化学物質の種類や影響の仕方が異なるため、さらに多様な調査・研究が必要です。
 たとえば、平成27年の報告書では、防衛大学校の山口名誉教授により、海ごみ(発泡スチロールブイ、プラスチックブイ、電球類、蛍光灯類、ビン類の金属製キャップ、その他のプラスチックごみ)から溶け出る有害物質の量や広がりを推計するモデルが示してあります。これは、過去の膨大な調査・研究の資料の蓄積によって可能となりました。特に、ヒトを含む生物に好ましくない化学物質で、土壌汚染基準や水質基準などの基準が決められている有害化学物質について、13元素が対象となっています。今後は、残留性勇気汚染物質POPsについてもモデル化が必要とのことです。 

 

■今後の課題
(平成29年度の沖縄県海岸漂着物等対策推進協議会の活動より)
 海ごみに含まれる有害物質が海岸の生態系に影響を与えていることから、観光地や住民が多く利用する海岸を優先的に清掃するだけでなく、豊かな海岸生態系が残された海岸も清掃の対象に加える必要があります。さらに、マングローブ域や干潟、サンゴ礁の砂浜や岩礁などでは、海ごみの種類やたまり方、周辺の動植物の種類も異なります。海岸の生態系への影響を小さくすることを念頭に、海ごみを回収する場所を選ぶ必要もあります。沖縄県では、海ごみ調査や海ごみ回収の結果をもとに、海ごみを回収する海岸の基準や回収方法、回収の頻度などの見直しを行っています。

 今後は、カニ類以外にも、海岸の砂や植物についても有害物質の解析を行い、海ごみと生物の関係や影響の詳細を明らかにする必要があります。さらに、離島域では、回収した海ごみの多くは裁断して埋め立て処理されていることから、県内の海ごみの処理方法の見直しも必要です。

 海ごみと有害物質の関係や、有害物質の影響、そしてそれらの対策については、専門家会議を開いて評価を行い、課題を明らかにし、今後の方針について検討しています。このなかで、マイクロプラスチックについては、沖縄県が主体となった科学的な調査と同時に、一般市民や子供たちにもできる簡単な調査方法を開発して、双方を有効に活用できるシステムづくりが提案されています。海ごみに含まれる有害物質の研究が進んだことで、これを海ごみの発生対策に応用し、プラスチックの生産者責任や、安全対策を求めます。予防原則が動かないと、手遅れになってからでは、多様性に富んだ自然環境の保全が間に合わない可能性があります。これまでの調査結果を整理して、海ごみからの汚染経路がわかりやすい海岸を対象に、カニ類の他にも、植物や昆虫などについても詳細な科学的調査を行う必要があります。

 この他、沖縄県の海岸漂着物等対策推進協議会では、海ごみの回収、海ごみのモニタリング、海ごみと有害物質の影響と対策、海ごみの発生を抑える事業などについて、以下に示すような様々な課題が示されています。
 海ごみに関する予算が少ない。回収予算の継続は難しいので、発生抑制が重要。観光客増加に伴う海ごみの増加の懸念。市町村単位での海ごみ対策は、環境教育程度に止まっている。簡便なマイクロプラスチック調査方法が無い。海中だけでなく、海浜の生物についての有害物質の調査データが少ない。河川からのごみの流出量や、河川清掃活動のモニタリングが必要。海外交流地域の拡大。行政レベルでの海岸利用のルールづくり。離島域では最終処分場が小さく、海ごみまで対応できない。海ごみ対策は評価が難しく、予算につなげにくい。マイクロプラスチックの生物への影響は観光等への風評被害につながる可能性があるが、環境教育で利用すればいいのではないか。マイクロプラスチックついて、水産庁等は食の安全性等を検討しているのか。流木は所有者が処理する原則があるので、県の事業では処理できない。流木は、所有者探しや所有権の放棄に対する処理の指示などで時間がかかる。緊急の海ごみ回収に使える県の予算がない。県の予算が少ないので、海ごみモニタリングの回数を増やせない。有害物質の影響調査をウミガメなど多くの生物に広げたいが難しい。国際交流は、ベトナムやマレーシアにも広げたい。海ごみの発泡スチロールの資源化装置の補助金が打ち切られて、処理が困難になっている。ビーチクリーンを環境教育ツアーとして観光誘致したいが、県としてはアピールする場もないしネガティブなイメージがってツアー会社も消極的。海ごみモニタリングの海岸を増やしたいが、地形的に難しい所もある。防風林等にも海ごみが堆積しているが、管理者が異なると回収が難しい。人が住んでいない地域の海ごみは、回収が難しい。海ごみ回収予算の交付時期が遅い。海底ゴミの回収が進んでいない。レジャーの釣り人が多く集まる場所には、ボトルや袋などの海底ゴミに加えて、釣り糸や鉛の重りも多い。定期的に海ごみを回収できる海岸は、予算の都合上限られている。

 

 数年分の協議会報告書を読むと、年度ごとに内容に粗密があり、毎年順調に海ごみ対策が進むとは限らないことがわかります。